バクテリオファージと口腔ケア

バクテリオファージと口腔ケア

バクテリオファージとは

歯周病の進行には、Actinobacillus actinomycetemcomitans, Porphyromonas gingivalis, Tannerella forsythia, Treponema denticolaといった菌が関連していると考えられております。
こうした菌を殺菌するために殺菌剤・抗菌剤が幅広く用いられています。
しかし、殺菌剤・抗菌剤には、歯周病菌の耐性化、正常な細菌叢への否定的な影響、粘膜への刺激といった問題があります。
こうした中、注目されているのが、特定の微生物を選択的に抑制することができる「バクテリオファージ」です。(図1)

ファージはどうやってターゲットの菌を見分けているのか

ファージのロングテールファイバーはターゲットの細菌の目印(レセプター)を見つけて、細菌の表面にくっつきます。 レセプターは細菌によって異なります。ファージのリガンド分子はそれに対応した構造のレセプターでなければ、レセプター分子と結合することはできません。つまり、ここで結合できるかどうかがファージの宿主域を決めます。

幅広い範囲の細菌に対応するために

ファージは自分がターゲットとしない細菌には見向きもしません。例えば大腸菌(Escherichia coli)をターゲット(宿主)とするファージは大腸菌を退治することができたとしても、アクネ菌(Propionibacterium acnes)には見向きもしません。

しかも大腸菌をターゲットとするファージがあらゆる大腸菌を退治できるというわけではありません。一概に大腸菌といっても実はとても個性豊かなので、1種類の大腸菌ファージだけでこの世の全ての大腸菌に対応できるようにするというのは不可能なのです。

ある程度の種類の大腸菌をカバーできるようにするには、複数の種類の大腸菌ファージを組み合わせる必要があります。 このように複数の種類のファージを組み合わせたもののことを、数種の洋酒やジュースなどを混ぜあわせたカクテルになぞらえて「ファージカクテル」と呼んでいます。

ファージカクテルを作成することにより、幅広い範囲の細菌に対応できるようになるだけではなく、耐性菌の出現を抑えることができるようになります。(詳しくは下記コラムをご覧ください)

臨床データ

臨床データについてはこちらをご覧ください。

バクテリオファージと菌バランス

バクテリオファージはターゲットとする菌を全滅させることはできません。 バクテリオファージは細菌の密度が低下すると細菌に感染しにくくなります。これは、ファージが細菌と巡り合う確率が低下するからです。

自然界では何らかの理由で突発的に数が増えた細菌があると、バクテリオファージが細菌に感染しやすくなります。 つまり、バクテリオファージは増えすぎた細菌を溶菌することで細菌のバランスを整える役目を担っているのです。 このようなことを考えると、バクテリオファージは菌のバランスをちょうど良い状態に整えてくれる自然界のモデレーターということができるでしょう。

細菌側も細菌側で常にバクテリオファージ対策を行っている訳ではありません。細菌にとってバクテリオファージ対策を講じることの負担はとても大きいので、バクテリオファージ対策はリスクがある状況でだけ行っているのです。

このようにバクテリオファージと細菌は30億年以上互いを全滅させることなく、適度なバランスを保ってきたのです。

モニター募集

弊社では、バクテリオファージを配合した口腔ケア商品「イスクラファージ マウスバランス(仮称)」のモニター様を募集しております。

ご興味のある歯科医院様は下記フォームよりお気軽にお申し込みください。

コラム:ファージカクテル作成による耐性菌出現の抑制

ファージ耐性化の分子機構は様々ですが、多くの場合細菌の目印(ファージレセプター)が変異することで耐性化します。

ファージが細菌に感染する際、ファージは感染する細菌のレセプターに取り憑きます。レセプターに取り憑く器官をリガンドと呼び、ファージの足先に付いています。ファージ耐性菌はレセプターの発現を止めたり、構造を変化させたりすることでファージの結合を回避するのです。

例えば大腸菌O157:H7とファージ(PP01)を長時間培養すると、PP01ファージが感染できないファージ耐性大腸菌O157:H7が出現します。大腸菌O157:H7はPP01ファージのレセプター分子である外膜タンパク質C(OmpC)の遺伝子を欠損することで耐性化するのです。

PP01ファージが存在するときOmpC欠損大腸菌は野生株より優位です。しかしファージがいない環境ではOmpC欠損大腸菌は正常な大腸菌に比べて不利になります。なぜならOmpCの本来の役割である栄養分を培地から吸収する機能を欠損するからです。身を削って耐性化することを「コストを払う」と言います。細菌はコストを払ってファージ耐性化するのです。

ファージによってレセプターは異なります。異なるレセプターを用いる複数のファージ混合液(ファージカクテル)を用いると細菌は多くのコストを払わなければなりません。従ってカクテルに対する耐性化は難しく、成功したとしても多大なコストを払うことになるのでカクテル耐性細菌はひ弱な存在になります。